
北国や山あいの地域で雪が降りはじめる季節、「小雪(しょうせつ)」。二十四節気(にじゅうしせっき)の冬の2番目の節気で、2025年は11月22日〜12月6日になります。
小雪の頃になると、恐怖心が生まれやすくなります。また、耳の不調が現れることも。
これらはすべて、東洋医学の視点で見るとひとつの「生存本能」でつながっている現象です。
そんな小雪の時期に現れる心身の変化と養生法について、国際中医師・国際薬膳師の筆者がご紹介します。
<前の節気>立冬(りっとう) 2025年11月7日~11月21日
小雪は「雪の季節のはじまり」 恐怖心が強くなるとき

二十四節気の「小雪(しょうせつ)」といえば、北国から雪の便りが届きはじめる頃。
雪の季節がはじまると、森の動物たちは身を守るために「恐怖心」を強めていきます。
例えば、北海道で暮らすエゾシカ。生息数の増加による農作物被害などの問題が取り沙汰されていますが、基本的には臆病で警戒心の強い動物です。
草を食べるエゾシカにとって、雪深い冬の山はエサを得にくい場所。そのため雪の季節になると、エサを求めて雪が少ない低地や川沿い、海岸近くなどへと移動してきます。それでも冬の間に食べることができるのは、少量のササの葉や木の芽、小枝など。極力体力を温存しなければ、たちまち栄養不足で命を落としかねません。
さらに、常に天敵に狙われる危険とも隣り合わせ。彼らの天敵は狩猟をする人間や冬眠前のヒグマで、隠れ場所が少ない低地などではそうした天敵にも遭遇しやすくなります。
エゾシカたちは天敵の接近を察知するために聴覚・嗅覚・視覚を総動員し、できるだけ遠くにいる段階でいち早く天敵を感知するために聴覚を研ぎ澄ませます。常に耳を澄ませ、静寂を切り裂くわずかな音、草や枝を踏む小さな音にも敏感に反応して、天敵の気配を感じたら即座に逃げ出すのです。
しかし無闇に逃げてばかりいると体力を消耗し、春まで命が持ちません。食糧の乏しい冬は、できるだけ体力を温存して生きなければならないのです。かといって動くことを一瞬でもためらってしまうと、逃げ遅れて命取りに。エゾシカの冬は綱渡り。四方八方から襲ってくる危険を回避してなんとか春まで生き残るために、恐怖心というアンテナを常に張りめぐらせて、日々を必死に過ごしているのです。

恐怖心は生き残った「強さの証」

人間にとっても本来、冬は恐怖に満ちた季節でした。
日が短くなり暗い時間が長くなることへの恐怖。
寒さで体力が奪われることへの恐怖。
野山が枯れていくことへの恐怖。
食糧を確保しにくくなることへの恐怖。
オオカミやクマなどの獣に襲われることへの恐怖。
これらは、現代人にとっては遠い世界のことだと思われるかもしれません。
しかし、道具を使うようになり、火をおこすようになり、調理した食物を食べるようになり、衣服や住居で防寒するようになり⋯⋯と、人類が進化を遂げるまでには気が遠くなるほどの長い年月が流れています。それまでは人間もまた、森の動物たちと同じように、冬に恐怖を抱きながら生きてきました。
その原始の記憶は私たちの本能の奥底に深く刻み込まれており、安全に冬を過ごせる現代になってもなお、冬になると本能的に恐怖心が現れやすくなるのです。
例えば、物音がするとビクッと驚きやすくなる、遠くの音が気になる、日が暮れると落ち込む、急に不安になる、物音で目覚めることが多くなる、悪夢を見ることが多くなるといった傾向が、冬によく見られます。
こう書くと、冬は恐ろしくてつらい季節なのだというネガティブな印象が強くなりますが、これらの恐怖心は生き抜いてきた者だけが身につけてきた生存本能。たくましく生き残った「強さの証」でもあるのです。
「冬-腎-恐-耳」は「生存本能」という線で結びつく

生命を守るための防衛本能である恐怖心は、五臓の「腎(じん)」の働きと深く関わっていると東洋医学では考えています。
腎とは“生命力の源”となるもので、体全体を温めて寒さから守ったり、潤して乾燥から守ったり、成長や生殖を支えたりする役割をになっています。そして冬になると、この腎の働きが主軸となって生命力が守られるのですが、そのぶん冬は腎に負担がかかりやすいため、腎の力が弱まりやすい季節でもあります。
腎の力が弱まると体を温める力や潤す力が衰えてしまうため、寒さや乾燥などの冬の厳しさが心身に影響しやすくなる状態に。
そんな腎の力の低下を警告するサインのひとつといえるのが、恐怖心なのです。
また、腎の力が弱くなると耳の不調も現れやすくなります。具体的には、耳鳴り、聞こえにくくなる、耳が詰まったような感覚、音に過敏になるなど。エゾシカが危険を察知するために聴覚を研ぎ澄ませていたように、生存本能と聴力には深いつながりがあります。そのため、腎の力が弱くなると生命力の低下を知らせるサインとして、耳に不調が現れることがあるのです。
生物にとって過酷な季節である冬は、“生命力の源”である腎が働く季節。
その腎の生命力を守るために恐怖心が生まれ、耳で危険を察知して心や体にサインを送る。
「冬-腎-恐(恐怖心)-耳」という生存本能の結びつきが、この季節からいっそう強くなっていきます。
小雪の養生:命門・湧泉・耳のケアで恐怖心や耳の不調をやわらげる

前述した恐怖心に関する不調や耳の不調が現れたときは、「腎の力の低下サイン」と受け取って、次に紹介する腎を補う養生を行ってみてください。
◉「命門(めいもん)」のツボを温める
「命門(めいもん)」とはおへその真裏の背骨の上にあるツボで、体全体を温める腎の熱(=腎陽)の源といわれています。命門がしっかり温まると意志の力が充実して恐怖心がやわらぐほか、冷え、腰痛、頻尿の改善サポートにもなります。両手をよくこすり合わせ、温めた手を命門のツボ周辺にあてて温めながら深呼吸をする、命門のツボにカイロをあてるなどしてよく温めるといいでしょう。
◉「湧泉(ゆうせん)」のツボを押す
「湧泉(ゆうせん)」は足裏にあるツボで、足の指を曲げたときにできる足裏のくぼみ。腎の根源となるツボで、ここを押したりマッサージしたりすると、頭部に上っていた気(き=エネルギー)を下に降ろして恐怖心を鎮めるサポートとなります。
◉耳をマッサージする
耳は腎とつながっているため、耳をマッサージすると腎が温まり、恐怖心をやわらげる助けとなります。耳全体を軽く引っ張ったり、耳のつけ根をもみほぐしたり、耳の後ろのへこみを指先で押したりするといいでしょう。
◉腎を補う食材をよくとる
黒豆、黒ごま、くるみ、やまいも、栗、なつめ、にらなどの腎を補う食材をよくとりましょう。腎の力を充実させることで恐怖心が起こりにくくなるほか、耳の不調や腰の不調などをやわらげる助けにもなります。
そのほか、立冬の記事でご紹介した養生法もおすすめです。あわせてとり入れてみてください。
これからの季節、恐怖心や不安感が立ち上がってきたときは「厳しい冬を生き抜いた遠い祖先のDNAがサインを送ってきている」と受け取り、ここでご紹介した養生をとり入れてケアをしてみてください。
脈々と受け継がれてきた恐怖心という本能は、生命を守るための心強い防御力でもあり、自然と人間との強いつながりでもあるのです。
参考文献:国立天文台HP 暦計算室 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
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