東洋医学はじめの一歩。それは「陰陽(いんよう)」を意識したライフスタイル

予防医学や体質改善などに大いに役立つ東洋医学
とはいえ、漢方薬や薬膳、鍼灸などはどれも専門知識が難しそうでハードルが高いかも……と、敬遠していませんか?

いえいえ、東洋医学はもっと気軽に実践することができるんです。
その方法とは陰陽(いんよう)の考え方を生活に取り入れること。

ここでは東洋医学はじめの一歩として、陰陽を意識したライフスタイルについてご紹介します。
今日からすぐに実践できる、簡単な方法ばかりですよ!

陰陽とは、地球の「潤す力・冷やす力」と太陽の「熱する力」

陰陽と聞くと、占いの陰陽道(おんみょうどう)や陰陽師(おんみょうじ)を想像する人もいるかもしれませんね。

東洋医学における陰陽と、占いの陰陽道・陰陽師は、古代中国で生まれた陰陽説(いんようせつ)が土台になっている点は共通しますが、両者はまったく別のもの。陰陽道は日本で独自に発展した占星学であるのに対し、東洋医学は主に中国で発展した医学体系であり、占いの要素はいっさいありません。

陰陽説は東洋医学の最も基本となる理論で、自然界のすべてのものは陰と陽で成り立っているという考え方。

陰と陽とは、

陰=大地(地球)に由来する「潤す力・冷やす力」
陽=太陽に由来する「熱する力」

のことで、自然界のあらゆるものはこの陰と陽が混じり合うことによって生まれ、成長、進化、繁栄をしているという理論です。

確かに地球は表面積の7割が海である「水の惑星」であり、そこに太陽からの熱を受けて生物の光合成が始まり、酸素が生まれ、生命が進化して繁栄していったことを考えると、自然界は陰と陽が混じり合って生まれたものというのはまさしくその通りですね。

そんな陰と陽には、それぞれ次のような特徴があります。

陰と陽の特徴

陽……明るい、熱い、乾燥している、上昇する、外向きの力、発散、活動的
……暗い、冷たい、湿っぽい、下降する、内向きの力、収斂、鎮静的

この特徴にもとづいて日常生活に直結する物事を陰と陽に分類すると、次のようになります。

1日朝・昼夕方・夜
1年春・夏秋・冬
生活起きる
活動する
眠る
休む
体の構成要素エネルギー(気)血液(血)
体液(津液)
体の活動エネルギーを
燃焼する
血液・水分を
蓄える
食べ物エネルギー・熱を補う食べ物
温める食べ物
血液・水分を補う食べ物
冷やす食べ物

これらを見るとわかる通り、陰と陽はどちらも欠かせないもので、どちらか一方に偏ることなく両者がバランスよく存在していることが健康な状態なのです。

1日の陰陽リズムを意識しよう

では、この陰と陽の考え方をさっそく日常生活に取り入れてみましょう。
ポイントは1日の陰陽リズムを意識することです。

1日には、大きく分けて陰と陽の時間があります。朝と昼は陽の時間、夕方と夜は陰の時間となります。

陰の時間と陽の時間

陽の時間(朝・昼)=熱が生まれ、エネルギーが燃焼される活動的な時間
陰の時間(夕・夜)=潤いが生まれ、血液や水分が蓄えられる休息的な時間

下のグラフのように朝は陽気(陽の熱エネルギー)が生まれはじめ、昼は陽気がピークになり、夕方になると陰気(陰の冷気・湿気)が生まれはじめ、夜は陰気がピークになります。

このように陽の時間と陰の時間が波のように交互に訪れることで、陰陽のバランスがとれた状態が維持されています。
※季節によって陽の時間と陰の時間の長さは変動します。

陽の時間

◉朝=陰から陽に変わる時間
陰の時間だった夜が明けてまだ間もない朝は、朝日から新鮮な陽気が生まれている時間。植物は光合成を開始し、動物たちは目を覚まして、自然界全体が休息モードから活動モードへと切り替わります。ここから昼にかけて、少しずつ陽気が強くなっていきます。

◉昼=強い陽の時間
太陽が高く昇り、陽気が強く満ちています。海や大地は熱せられ、気温はどんどん高くなり、水分は蒸発して雲となります。植物は光合成によってどんどん栄養を作り出し、動物は食糧を探し求めて活動しエネルギーを獲得します。正午をすぎると、陽気の勢いが少しずつ弱まりはじめ、陰気が少しずつ増えはじめます。

陰の時間

◉夕方=陽から陰に変わる時間
日が傾く頃には陽気が減り、陰気の勢いが強くなってきます。植物は光合成を終えて休息状態に入り、動物たちは活動を終えて巣に帰ります。

◉夜=強い陰の時間
夜更けには陰気の勢いがピークを迎えます。大地は冷え、水分が地上に降りてきます。植物は幹や根などに潤いや栄養を蓄え、動物は巣で休息します。

人間は自然の一部なので、人間の体にも自然と同じ陰陽のリズムが備わっています。
しかし、昼近くまで寝ている、深夜遅くまで起きている、運動不足で日中の活動量が少ない……といった不規則な生活は、陰陽リズムの乱れとなり、さまざまな不調が現れやすくなります。

自然の陰陽リズムを意識して生活習慣を見直すことが、東洋医学をはじめる第一歩なのです。

朝・昼・夕・夜の陰陽ライフスタイル

では具体的に、1日の陰陽リズムを意識したライフスタイルをご紹介しましょう。

朝の陰陽ライフスタイル

朝の目覚めとともに体内で陽気が生まれはじめます。体内の陽気を育てていきましょう。

◉日の出の時間に起きて新鮮な陽気を浴びる
朝は陽気の源である太陽とともに1日をスタートさせるのが理想的。なので、日の出の時間を目安に起床しましょう。日の出の時間は季節や地域によって差がありますが、おおよそ春・秋は6時頃、夏は5時頃、冬は7時頃です。
そこまで早起きできない……という場合は、できる範囲内でいいので日の出の時間に近い時間に起きることをめざしてみてください。なお、日の出前に起床するのは控えて、日が出るまではベッドで横になっていましょう。起きたら窓を開けて朝日を浴び、生まれたての陽気を体で感じ取り、深呼吸をして新鮮な空気を体内に取り込んでください。

◉白湯と温かい朝食で胃腸の調子をととのえる
起床後に胃腸が活発に消化吸収を行うことで、体内に陽気がどんどん生まれ、日中の活動力が高まっていきます。そのため朝起きたらまずは湯呑み1杯分の白湯を飲み、胃腸の活動を促しましょう。そして、おかゆやスープなどの温かくて消化にいい朝食をとりましょう。パンよりもお米のほうがより体を温め、陽気を生み出す糧となります。
そのほか、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、かぼちゃ、いも類、きのこ類などの食材も胃腸を元気にするのでおすすめです。

◉冷たい飲食物を避ける
朝にジュースなどの冷えた飲みものや生野菜サラダ、フルーツなど冷たい飲食物をとると、胃腸を冷やしてしまい消化吸収力の低下につながります。すると陽気を生み出す力も弱くなり、体力低下や免疫力低下につながることも。注意しましょう。

昼の陰陽ライフスタイル

陽気がピークを迎えます。代謝が高まって体温や心拍が上昇し、エネルギーがどんどん燃焼されて心身が活発に活動します。

◉昼食は1日でもっとも栄養価の高い食事にする
エネルギー源となる食事をしっかりとるべき時間なので、昼食は1日の食事のなかで最も充実させましょう。昼食後に軽い散歩をすると、消化を助けます。

◉できるだけ体を動かす
体内の陽気を増やすためにも、昼間はできるだけ体を動かすように意識しましょう。長時間のデスクワークなどで座りっぱなしにならないように、こまめに軽い体操ストレッチをする、エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、移動はできるだけ徒歩の時間を長くするなど、少し意識するだけでも変わってきます。

◉昼食後に昼寝、もしくは静かに目をつぶる
午前中は陽気が増え続けますが、正午を境に陽気が徐々に減りはじめ、陰気が徐々に増えはじめていきます。この正午の陽から陰への切り替えを促すために、昼食後は15分程度の軽い昼寝をするか、3分程度静かに目をつぶるといいでしょう。午後の体調が整いやすくなります。

夕方の陰陽ライフスタイル

体内の陽気は少なくなり、陰気が多くなってきます。心身を活動モードから休息モードに切り替えましょう。

◉活動をペースダウンさせる
17時以降は激しい運動は控えて、仕事もペースダウンを。あまり体力を消耗しないようにし、ゆったりとリラックスして過ごしましょう。

◉19時までに夕食をとる
夕食は「夕」と名がつく通り、本来は夕方に食べるもの。19時までに夕食をすませるのが理想的です。それが難しい場合でも、できるだけ早めにとりましょう。遅い時間の食事は胃腸の負担となり、不眠の原因にもなります。なお、夕食は三食のうちでもっとも軽くなるようにしましょう。

夜の陰陽ライフスタイル

体内は陰気に満ち、血液や水分が増え、睡眠中に血液や水分が蓄えられていきます。各組織に潤いや栄養が行き渡り、余分な熱を冷まし、疲労が回復されます。血液や水分を消耗しないように静かに過ごしましょう。

◉仕事や運動は控えてリラックスして過ごす
夜は陰気が強くなり、体内に血液や水分が蓄えられる時間です。夜に仕事や運動をすると血液や体液を消耗し、体に余分な熱をため込むことにもなるため、不眠やイライラ、炎症など、さまざまな不調の原因となります。夜は楽しい気分でリラックスして過ごしましょう。

◉早めに入浴をする
入浴は体に熱を生むのでなるべく早く、21時までにすませるのが理想的です。それが難しくても、できるだけ早めに入浴を。なお、汗をかきすぎると血液の不足を招き、不眠の原因となる場合があるため、長風呂は避けましょう。サウナも大量の汗によって体内の血液や体液を大量に消耗するため、夜は避けましょう。

◉23時までに就寝する
就寝前はストレッチやマッサージなどをしてリラックスし、日付が変わる前、できれば23時までにはベッドに入りましょう。23時以降も起きていると、血液の不足を招きます。

「この陰陽ライフスタイルをすべて毎日行わないといけないの?」と、気負う必要はありません。
まずは、「1日には陰と陽の波のようなリズムがある」ということを意識して過ごすことからはじめてください。
「今は陰の時間だから少し休もう」「陽の時間だからできるだけ体を動かそう」という風に気づけるだけでも、十分に東洋医学的な生活となります。
できることから、少しずつ実践してみてください。

画像素材:Adobe Stock、Shutterstock

著者プロフィール
TSUBO

国際中医師・国際薬膳師
東洋医学ライター

広島生まれ、東京育ち。2019年より広島県在住。
大学卒業後、雑誌・書籍・WEBコンテンツの編集者をへて、国際薬膳師、国際中医師の資格を取得。現在は「自然と人体のつながり」をテーマに東洋医学ライターとして活動中。

宝島社「大人のおしゃれ手帖WEB」(https://osharetecho.com/)にて「50代のこよみ養生」を連載中。

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