
2026年5月21日~6月5日は二十四節気の「小満(しょうまん)」。万物が成長して生命力が満ちあふれる、「万緑」の季節です。この色濃くなる緑と、私たちの体を流れる血液の赤い色には深いつながりが。両者の共通点が、小満の自然のあふれる生命力を心身へととり入れるカギとなります。
ここでは東洋医学にもとづいて、小満の自然と人間の体のつながりを独自の視点で探り、季節と調和して自然との一体感を感じられる養生法をご案内していきます。自然の中に私たちの体を、私たちの体の中に自然を見出してみてください。
<前の節気>立夏(りっか) 2026年5月5日~5月20日
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小満とは「万物が成長していのちが満ちる季節」

2026年5月21日~6月5日は二十四節気の「小満(しょうまん)」。「小さく満ちる」と書きますが、とんでもない。万物がみるみる成長して天地に生命力が満ちあふれてくる、とてもエネルギッシュな季節です。
特に植物が生い茂る勢いは圧倒的。若葉が青葉になり、新緑が深緑になり、草木は密生し塊となって盛り上がり、野山は見渡す限りの緑、緑。街中でも街路樹が青々と輝いて風に揺れ、壁をつたう蔦の葉がみるみるとつるを伸ばして緑のカーテンに。
まさに「万緑の季節」です。

植物が葉やつるをどんどん増やすということは、大気中の二酸化炭素をどんどん吸収しているということ。気象庁がHPで公表している「大気中二酸化炭素濃度の月平均値」によれば、毎年5月から二酸化炭素濃度が急降下しているのですが、これは小満の時期になると地上の二酸化炭素がどんどん植物に生まれ変わっていることを示しています。
植物の体の約半分(水分を除く)は炭素でできており、この炭素はすべて大気中の二酸化炭素が原料。つまり、小満の景色を彩る緑は、もとをたどれば数日前まで空中に漂っていた二酸化炭素ということになるわけです。なんだか不思議ですね。
天地がさかんに融合し、形なきものから形が生まれる。
「無」から「有」が生み出される。
そんな生命のダイナミズムがみなぎる季節、それが小満という節気なのです。

【小満の自然】植物の緑の色素「クロロフィル」濃度が急上昇

「無」から「有」を生み出すには、強力なエネルギーが必要です。そのエネルギー源こそが太陽。光合成です。
植物は日光を浴びると、細胞内の葉緑体でエネルギー(ATP)を合成し、その過程で水を分解して酸素を生成。そして二酸化炭素を吸収し、合成したエネルギーと二酸化炭素から糖(グルコース)を生み出します。この糖が葉やつるとなり、幹や枝や根となり、ゆくゆくは果実や種にもなっていくわけです。私たちが食事で摂取する炭水化物も、もとをたどればすべてこの植物の糖なのです。
日光からエネルギーと酸素を生成するのは、葉緑体の中にある「クロロフィル」という緑色の色素。小満はクロロフィルの濃度が急上昇する季節であり、小満の季節に緑がどんどん色濃くなっていくのは、このクロロフィルがどんどん増えているからなのです。

しかしそもそも、クロロフィルはなぜ緑色なのでしょう。植物はなぜ緑色なのでしょう。
それは、クロロフィルが日光に含まれるさまざまな色の光のうち、光合成に必要な赤と青の光を吸収し、緑の光はあまり吸収せずに反射しているため。私たちが植物の色だと認識している緑色は、実は植物が利用していない光の色なのです。
植物が動物や私たち人間に分け与えてくれている光の色が緑色、といってもいいかもしれませんね。
【小満の天人合一】植物の「クロロフィル」と血液の「ヘモグロビン」、ふたつの色素のつながりとは

天人合一(てんじんごういつ)───これは、「天(自然界)と人間は一体である」という意味の東洋医学の言葉。この天人合一の言葉の通り、小満の自然と人間の体には不思議なつながりがあります。
植物にとってのクロロフィルのように、エネルギーと酸素に関わる色素といえば、人体にも存在しますね。
血液中の「ヘモグロビン」です。
赤血球に含まれる赤い色素で、鉄とたんぱく質から構成されているヘモグロビンは、肺で酸素と結びつくと鮮やかな赤色を呈し、そこから動脈をめぐって皮膚、筋肉、内臓などの各器官まで酸素を届ける役割をになっています。
各器官へと届けられた酸素は、ヘモグロビンから離れて細胞内で燃焼されてエネルギー(ATP)を生成しますが、このATPは、植物が光合成の際に酸素と糖に変換した太陽エネルギーを、もとの姿に戻したもの。つまり私たちは、植物のクロロフィルが吸収した太陽エネルギーを、ヘモグロビンを介して享受しているのです。

しかし、なぜ酸素と結合したへモグロビンは赤いのでしょう。血液はなぜ赤いのでしょう。
それは、ヘモグロビンに含まれている鉄の存在が大きな理由となっています。私たちの身の回りでも鉄が酸化するとサビて赤くなるように、ヘモグロビンに含まれる鉄は酸素と結びついて酸化すると、赤色の光を反射しやすくなるのです。
では反対に何色の光を吸収しているのかというと、青緑色の光を吸収しています。赤色と青色の光を吸収して、緑色の光を反射している植物のクロロフィルとは真逆ですね。

クロロフィルとヘモグロビン、どちらも酸素やエネルギーの生成や運搬に関わる色素という共通点を持ちながら、赤と緑という正反対の光(補色関係にある光)を吸収し反射している。鏡合わせのようであり、対照的な存在でもある、まるできょうだいのような関係ですね。
クロロフィルは二酸化炭素を吸収し、太陽のエネルギーを使って酸素を作り出す。ヘモグロビンはその酸素を体内の各器官まで運搬し、二酸化炭素を回収・放出する。きょうだいが息を合わせて、太陽のエネルギーを循環させているようです。太陽の光の色を仲良く分け合いながら、足りないものをお互いに補い合い、共存共栄しつづけている───それが、クロロフィルとヘモグロビンの関係といえるかもしれません。
【小満の東洋医学】あふれる「緑」からあふれる「赤」が生まれ、あふれるエネルギーを受け取る
クロロフィルからヘモグロビンへのエネルギーの循環は、東洋医学の「五行(ごぎょう)」という理論にピタリと当てはまる現象です。
五行とは自然界を形成している根源的な5つの要素のことで、その要素とは木(もく)・火(か)・土(ど)・金(きん・こん)・水(すい)の5つ。木は燃えて火となり、火は燃えつきると灰となって土になり、土の奥深くからは金属(鉱石)が生まれ、金属を含む地下の地層からはミネラル豊富な水が湧き、湧き出た水は森を潤して木を育てる……というように、五行の5つの要素が循環することで自然界が成り立っていると考えられています。

この五行の循環は自然界全体を貫く法則であり、自然に存在するあらゆるものが同じ法則で5つに分類できると考えられています。色についても五行の法則で分類した「五色(ごしょく)」という考え方があり、青・赤・黃・白・黒の五色は五行の木・火・土・金・水の関係と同じであるとされています。

五行学説が誕生した古代中国では、青がさす色は幅広く、緑も含まれていました。日本でも緑色の葉を「青葉」、緑色の野菜を「青物」、緑色のりんごを「青りんご」と呼びますよね。つまり、五行の「木」が「火」を生むように、五色の緑(青)は赤を生む、と考えられるのです。
緑色のクロロフィルと赤色のヘモグロビンの関係は、まさにこの五色の循環そのもの。緑色のクロロフィルから生まれた酸素が、私たちの体内に入り、ヘモグロビンと結びついて赤い血液となり、燃焼されてエネルギーとなる。まさしく「緑は赤を生む」の法則です。

万緑の季節である小満は、あふれるほどの緑からあふれるほどの赤が生まれ、あふれるほどのエネルギーを受け取るとき。これから暑さが徐々に本格化するのに備えて、自然の緑からめいっぱいエネルギーをもらって体力を蓄えていきたいですね。
【小満の養生】自然の緑と体内の「血(けつ)」のつながりを強固にする
あふれる緑の力で「血(けつ≒血液)」の質が高まり、エネルギーがどんどんもたらされる小満。この時期は、自然の緑と私たちの体内の血のつながりをより強固にする養生法を実践しましょう。自然の緑と体内の血とのつながりが強くなれば、エネルギーがより多く生まれやすくなり、気力も体力も充実します。
◉「緑色の食材」と「赤色の食材」をよくとる
東洋医学の「五色」は同じく五行学説にもとづく「五臓」と対応しており、青(緑)=肝(かん)、赤=心(しん)、黄=脾(ひ)、白=肺(はい)、黒=腎(じん)という関連性があります。そしてそれぞれの色の食材が、関連する臓に入りやすい(効果を及ぼしやすい)と考えられています。

この理論を応用して、「クロロフィル=緑」と「ヘモグロビン=赤」の食材を食事にとり入れましょう。自然界で起こっている「緑が赤を生む」というエネルギーの循環を、体の中にもとり入れてゆくイメージです。
緑色の食材は、五臓の肝に入りやすいとされています。肝には血を貯蔵する働きと血行を促す働きがあり、血を循環させる心の働きを支えています。そのため、ほうれん草、小松菜、チンゲンサイなどの緑の濃い野菜をとって肝の働きを助けると、心の働きも高めることができます。
そして赤色の食材は、五臓の心に入りやすいとされています。カツオやマグロなどの赤身魚、牛肉などの赤身肉、なつめ、くこの実などの赤い食材は心の働きを助け、血を赤くして血の質を高めます。
◉「活血(かっけつ)」の食材をとる
東洋医学では「血は気を載せる」といい、エネルギーである気は、血という乗りものに乗って全身に運ばれていくといわれています。この考えは、酸素がヘモグロビンと結合して血流に乗って全身に運ばれることと符号するもので、全身くまなく酸素を運ぶためには血のめぐりをよくする「活血(かっけつ)」の食材をよくとることも効果的といえます。血のめぐりをよくすることは、心の働きを助けることにもなります。前出の緑色の食材や赤色の食材と組み合わせるのがおすすめです。
活血の作用がある食材のなかでも、気温が上がってくるこの時期は、体を冷やす性質もしくは体を冷やさないけれど温めもしない性質の食材を選ぶのが◎。チンゲンサイ、なす、れんこん(生または軽く火を通したもの)、だいこん、黒豆、黒きくらげなどがあります。
◉鉄瓶、鉄鍋、鉄フライパンなどで調理する

血液が赤くなるために欠かせないのが、酸素ともうひとつ、鉄分です。鉄は漢方薬の生薬にも用いられている素材で、東洋医学では心の働きを助け、血の余分な熱を冷まして高ぶりを落ち着かせ、下半身にもしっかりと血をめぐらせる働きが期待できると考えます。暑い時期は血に余分な熱がたまりやすく、高ぶりやすいので、これからの季節の養生にも最適です。
そこで鉄瓶、鉄鍋、鉄フライパンなどを調理に使い、鉄器から溶け出す微量の鉄分を体に補給していきましょう。前出の食材を使うとさらに効果的です。血が充実し、酸素を運んでエネルギーを生み出す力を底上げすることができるでしょう。
<調理例>
・鉄瓶で沸かした白湯を朝一番に飲む
・鉄フライパンで赤身肉やカツオなどを調理する
・鉄鍋でほうれん草やチンゲンサイ、なす、黒きくらげなどのスープを作る
◉午前中に日光浴をする
東洋医学では、心の陽気(熱エネルギー)の働きによって血が赤くなると考えられています。植物がクロロフィルを使って日光をエネルギーに変えるように、私たちも心の陽気を養うために日光浴をしましょう。紫外線対策をしたうえで、紫外線が比較的少ない午前中に15分ほどうつ伏せになって日光浴を。背中は陽気を吸収しやすい場所なので、背中に日光を浴びるのが効果的です。
◉森林浴をする
小満は大気中の二酸化炭素濃度が急降下する季節。ということは、植物の酸素放出量が急上昇する季節ということになります。そこで、酸素が豊富な森林や公園などに出かけて森林浴をし、深呼吸をして酸素をたっぷりと吸収しましょう。木々が放出する新鮮な酸素と、緑の香りを吸い込むことで、自然の緑と体とがダイレクトにつながってエネルギーが充実するでしょう。
おわりに
小満の自然と体とのつながりの話、いかがでしたでしょうか。
現代では、トマトに含まれる赤いリコピンやブルーベリーなどに含まれる青紫色のアントシアニンといった色素成分に、抗がん作用などの健康効果が認められていることはよく知られています。しかし、この常識が一般的に広まったのはつい最近のこと。食品色素の健康効果が科学的に発見されたのは、1980年代後半から1990年代初頭にかけてなのです。それまで西洋医学では、植物の色素は「見た目の美しさ」や「視覚的な誘引」のためだけのものと考えられていました。
一方、東洋医学では、食材の色に健康効果があることを数千年前から唱えていました。それが今回ご紹介した「五色」理論です。古代中国の人々は長い年月をかけ、膨大な経験を積み重ねて、食材の色に健康効果があることを見出したのでしょう。数千年来の東洋医学の理論を現代科学が追認するという状況は、これ以外にも数多く存在しているのです。
さて、小満は植物の緑色の色素であるクロロフィル濃度が高まる季節ということで、今回はクロロフィルとヘモグロビンのつながりについてお話しました。二酸化炭素を吸収して酸素を放出するクロロフィルと、酸素を供給して二酸化炭素を排出するヘモグロビン。両者が一体となることは、まるで地球全体がひとつになって深呼吸をしているかのようですね。
小満の季節は森に出かけて、色濃くなった緑の木々と息を合わせて、「地球の深呼吸」を感じてみませんか?
参考文献:
国立天文台HP 暦計算室 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
『中国伝統医学による食材効能大事典』(山中一男・小池俊治編、東洋学術出版社刊)
『食薬方剤学』(本草薬膳学院刊)
画像素材:Adobe Stock、Envato、Canva
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