
2026年6月6日~6月20日は、二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」、梅雨入りの季節です。梅雨は、田んぼや畑にとってはありがたい恵みの雨ですが、むくみや体の重だるさ、頭痛などをもたらす原因でもあります。いわば梅雨とは、私たちの体の中にどんよりと重たい雨雲をもたらす存在。芒種の季節はこの「体の中の雨雲」をスッキリさせる養生で、健やかに過ごしていきましょう。
ここでは東洋医学にもとづいて、芒種の自然と人間の体のつながりを独自の視点で探り、季節と調和して自然との一体感を感じられる養生法をご案内していきます。自然の中に私たちの体を、私たちの体の中に自然を見出してみてください。
<前の節気>小満(しょうまん) 2026年5月21日〜6月5日
<次の節気>夏至(げし) 2026年6月21日~7月6日
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芒種は「稲や麦の種があふれる季節」

2026年6月6日~6月20日は、二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」。芒種の「芒」は「のぎ」とも読み、稲、麦、あわ、ひえなどの穀物の種子についているトゲのような突起物のことをさします。穂先の細い毛のようなものがそれで、これはイネ科植物にしか見られない特徴。昔は「イネ科」のような分類名はなかったので、代わりに稲や麦などの穀物をその特徴である「芒」と表現したのでしょう。ちなみに「のぎ」は「禾」とも書きます。穀物や農耕に関わる漢字の部首である「のぎへん」の「のぎ」ですね。
その「のぎ」の字がつく芒種という名の節気は、どんな季節なのか。
ここでは「稲や麦の種があふれる季節」と表現してみたいと思います。

「ここでは」としたのは、芒種は一般的に「穂の出る植物の種まきの季節」と説明されているから。確かに稲はこの時期に田植えが行われる地域が多いので、広い意味では「種まきの季節」といえるでしょう。しかし麦は収穫のときであり、いわば「種を刈りとる季節」なのです。
輸入小麦が普及する以前の日本では、稲と麦の二毛作が全国的にさかんでした。豊富な水分を必要とし高い気温を好む稲と、乾燥に強く低い気温を好む麦。暑い季節は稲を育て、稲を収穫した後の寒い季節は麦を育てる。その麦が実るこの時期は、「麦にとっての実りの秋」=「麦秋(ばくしゅう)」とも呼ばれました。麦の種(実)を収穫し、同時に稲の種をまく(田植えをする)季節であった芒種は、かつての日本の農耕生活において最も活気に満ちた「穀物の種があふれる季節」だったのです。
ちなみに、暑い季節に育つ稲は「陽の穀物」、寒い季節に育つ麦は「陰の穀物」ということができます。薬膳の考え方でも、米類は体にエネルギーを補う陽性の食材、小麦や大麦は体の熱をやさしくとり除く陰性の食材とされています。この時期に収穫される小麦や大麦(陰の穀物)はこれからの暑い季節(陽の季節)に必要な食材となり、暑さが収まる頃に収穫される稲(陽の穀物)は秋冬の寒い季節(陰の季節)に欠かせない食材に。なんとうまく陰陽のバランスがとれているのでしょう。
「陽の穀物」である稲の栽培が本格化する、芒種。その稲の栽培に必要な大量の水分は、この時期に訪れる梅雨によってもたらされます。

【芒種の自然】日射量が最大に近づき、梅雨がはじまる

芒種は夏至のひとつ手前の節気です。そのため日の高さも長さもピークに近くなり、南中高度は全国平均的に約77~78度、日の長さは約14時間半に(数値には多少の地域差あり)。芒種は梅雨入りの季節でもあり、空が曇りがちなので、あまり太陽のイメージはないかもしれませんが、地球レベルで見ると日射量がほぼ最大に達する季節なのです(ちなみに夏至の南中高度は約78~79度、日の長さは芒種とほぼ同じ)。
そして梅雨とはまさに、この極まりつつある強大な太陽エネルギーがもたらす自然現象といえるでしょう。
この時期に日射量が最大に近づくのは日本だけでなく、北半球全体にわたって同様です。日本列島の隣のユーラシア大陸には世界最大級の高原で日本の国土面積の約6倍もの広さを誇るチベット高原があり、芒種の頃になると太陽熱を大量に受けて気温が急上昇します。温められたチベット高原の空気は上昇気流となり、モンスーン(季節風)を生じ、インド洋や南シナ海の水蒸気を大量に運んで日本列島へと流れ込んできます。
同じ頃、太平洋上では暖かく湿った空気(太平洋高気圧)が発達。一方、海氷が溶けたばかりのオホーツク海上では冷たく湿った空気(オホーツク海高気圧)が発達。そしてこのふたつの空気が、日本列島上空でぶつかります。双方の勢力は拮抗するため、どちらにも押し返されることなく日本列島付近でにらみ合ったままとなり、両者の境界線は動かずにしばらく停滞しつづけることに。これが「梅雨前線(停滞前線)」です。
そしてこの梅雨前線に、チベット高原から生まれたモンスーンが流れ込み続けることで、雨雲がつぎつぎと発生して長期的にしとしとと雨が降り続く梅雨をもたらすわけです。ジメジメした季節ではありますが、この梅雨があるからこそ東アジアでは稲作が発展し、繁栄をもたらしたともいわれています。
【芒種の天人合一】体の中に「雨雲」ができる

天人合一(てんじんごういつ)───これは、「天(自然界)と人間は一体である」という意味の東洋医学の言葉。この天人合一の言葉の通り、芒種の季節に起こる自然の変化と人間の体には、不思議なつながりがあります。
稲作や畑作にとって恵みの雨である梅雨ですが、ジトジトした気候は私たちの体にも大きく影響をもたらします。
梅雨の源泉である梅雨前線では、暖かい空気が冷たい空気の上へ乗り上げて上昇気流が発生しています。このときに大量の水蒸気が上空へと持ち上げられ、冷やされて水滴となり、大気中を漂う微小なちりなどに付着して水滴や氷の結晶となり、やがてそれらが無数に集まって雲が発生していきます。
発生したばかりの雲は水滴の粒が非常に小さくて軽いのですが、上昇気流に揺らされるうちに水滴同士がくっつき合い、雪だるま式に水滴が大きくなって、次第に重たい雨雲へと変わっていきます。やがて上昇気流では支えられないほど重くなると、雨雲は雨となって地上へと降り注いでいきます。
実は、こうした雨雲の発生と同じような現象が、芒種の時期に私たちの体の中でも起こるのです。
芒種の時期の気候は高温多湿ですが、私たちの体もこの気候の影響を受けて、体内は熱と湿気が多い状態に。特に「五臓(ごぞう=体の機能を大きく5つに分けた東洋医学の考え方)」)の「脾(ひ≒胃腸機能)」は湿気に弱いため、この時期になると働きが弱くなりやすい傾向があります。
東洋医学では、脾には水分をめぐらす働きがあると考えられています。通常、脾は飲食物を消化吸収して清らかな水分を生成し、不要な水分は排出。清らかな水分は体の上部へと運んで五臓の「肺」へと届けます。肺は脾から受けとった清らかな水分を、霧状のシャワーのように全身に散布して体全体を潤していきます。
しかし脾の働きが弱くなっているところに、冷たい食べものや脂っこい食べもの、甘いものなどを多くとると、脾に負担がかかって水分処理がうまくいかなくなり、清らかな水分も不要な水分もごちゃ混ぜになって凝結し、雨雲のような重たい水分の塊となってしまうのです。この体内の雨雲は「痰湿(たんしつ)」と呼ばれます。
このように、芒種は「体の中の雨雲=痰湿」が発生しやすい季節といえるのです。
【芒種の東洋医学】「体の中の雨雲」=痰湿(たんしつ)とは

「体の中の雨雲」である痰湿とは、体内の水分代謝が低下したために、本来は体を潤すはずだった水分が体内をめぐらずに停滞して病的な物質に変化したもの。病的な水分のうち水っぽいものを「湿(しつ)」、湿が煮詰まって粘り気が強くなったものを「痰(たん)」と呼び、痰湿とはこれらの病的な水分物質の総称になります。
痰湿を「体の中の雨雲」と呼ぶ理由として、大きく3つの共通点が挙げられます。
まず、雨雲は飽和状態になった大気中の水蒸気が凝結してできた水分ですが、痰湿もまた、体内の水分処理能力を超えてあふれた水分が停滞し、凝結して生まれた物質です。雲に覆われた雨の日はジトジトと肌や髪がベタつくのと同様に、痰湿はベタベタと粘り気のある水分で、痰湿がたまると肌がべたつく、口の中がねばつく、便がねばつくなどの傾向が見られるようになります。
そして、雨雲は大量の水分を含むため重く、最終的には雨となって下降していきますが、同じように痰湿は凝結した水分なので重たく、下方に沈む性質があります。そのため痰湿がたまると、頭が重い、体がだるい、足がむくむといった体に重力がかかるような不調が現れやすくなります。
さらに、雲は太陽の光をさえぎって涼しい日かげを作るのと同じように、痰湿は体内の熱エネルギーである「陽気(ようき)」のめぐりをさえぎるため、体が冷えやすくなります。陽気は水分をめぐらせる力となるものなので、陽気のめぐりが滞ると水分のめぐりも滞りがちになり、めまい、胸のつかえ、膨満感などが現れやすくなります。
この「体の中の雨雲」をスッキリさせるためには、体内の水はけをよくすることがカギとなります。例えば自然界では、土の水はけが悪くてぬかるんでくると空気中の湿度も高くなり、やがて水蒸気が凝結して雲が生まれます。しかし土壌を改良して水はけをよくすれば、不要な水は排水されて土はぬかるむことなく、空気も澄んだ状態になるでしょう。
東洋医学では、体内の水分代謝の中枢となるのは脾の働きだと考えられています。脾の働きは自然界に置き換えると「土」。脾の働きである「清らかな水分を抽出して不要な水分を排出する力」を高めることが、体内の水はけをよくして痰湿が発生しにくい状態を保つことにつながるのです。
【芒種の養生】脾の力を高めて「体の水はけ」をよくする

体内に痰湿をためて「体の中の梅雨前線」を発達させないために、芒種の季節は体の水はけをよくする養生に力を入れていきましょう。
まずなにより重要なのは、脾に負担をかけないことです。冷たい飲食物や脂っこい食べもの、甘いもの、乳製品などは脾に負担をかけるため、脾の働きが低下しやすく、水はけが悪くなる原因となってしまいます。特に梅雨の時期は、これらの食材をとりすぎないように注意するといいでしょう。
そのうえで、次の食材を積極的にとるようにしてみてください。すべての食材を食べる必要はないので、体調などに応じて適宜チョイスしてみましょう。いずれも温かい状態でとることがポイントです。
①脾の力を補って余分な水分を排出する食材
体の水はけをよくするためにとるべき食材といえば、基本となるのが脾の力を補う食材です。なかでもはと麦、とうもろこし、大豆、そらまめ、いんげん、グリンピース、そばなどの食材には、脾の力を補って余分な水分を排出する働きを高める作用が期待できます。普段から胃腸が弱い人は、これらの食材を特によくとることがおすすめです。
②水分代謝を高める食材
体内の水分のめぐりを整えて不要な水分は排出し、必要な水分は確保する利水作用のある食材をよくとりましょう。冬瓜、きゅうり、黒豆、小豆、海藻類などの食材があります。
③利尿作用がある食材
むくみが強いときや体に熱がこもって重だるいとき、尿の色が濃いときなどは、水分の排出力が高い利尿作用がある食材をとるといいでしょう。ズッキーニ、なす、セロリ、白菜、緑茶などの食材があります。
④気のめぐりをよくする食材
「気(き=エネルギー)」には体内の水分のめぐりを先導する働きがあるため、気のめぐりをよくすることは、水分のめぐりをよくするために欠かせません。たまねぎ、らっきょう、かんきつ類、ジャスミン、マイカイカ(バラ)、ハーブ類などは、気のめぐりをよくする効果が期待できます。日頃からストレスが多い人や、イライラしやすい人には特にぴったり。
⑤発汗作用を高める食材
「解表類(げひょうるい)」と呼ばれる発汗作用を促す食材は、水分のめぐりをよくする助けになります。ねぎ、しそ、しょうが、みょうが、三つ葉、パクチーなどの食材があります。ただし、大量に食べると過剰に発汗してしまうので、少量をとるようにしましょう。
また、次のような生活養生もあわせてとり入れてみましょう。
◉長時間座りっぱなしの生活は、脾に負担を与え、その働きを低下させてしまいます。こまめに立ち上がって軽く体を動かすことを意識してください。
◉体の水はけをよくするためには、汗をかくことも大切です。お風呂はシャワーだけですませずに、湯船につかって汗をかくことを習慣にしましょう。
◉朝食抜きの生活は脾のエネルギー不足を招き、脾の働きの低下につながります。食欲がない場合はスープやおかゆでもいいので、朝食をとることを習慣にしましょう。
◉21〜23時は脾の働きが最も弱くなる時間帯。この時間帯に食事をとると脾に負担をかけてしまいます。夜遅い時間の飲食はできるだけ控えましょう。
◉くよくよと思い悩みすぎると脾の働きが低下します。雨の日に外出できなくても家で楽しく過ごせる趣味などを見つけておきましょう。
◉脾は湿気に弱い性質があるため、部屋の湿気対策も重要です。特に寝具の湿気対策には力を入れて。シーツ類を吸水速乾性に優れた素材に替えたり、除湿シートなどを活用したりして睡眠環境を整えておくといいでしょう。
恵みの雨はありがたいけれど、「体の中の雨雲」はノーサンキュー。脾の力を高めて体の水はけをよくしていき、雨雲をスッキリとデトックスしていきましょうね。
おわりに
芒種の自然と体とのつながりの話、いかがでしたでしょうか。
近年は雨の日に体調がすぐれなくなる「気象病」が広く認知されてきています。この時期になると、湿気対策や雨の日の不調対策の情報も飛び交うように。確かにお肌も部屋の中もジメジメしてきて、不快な気分になることもありますね。
ただ、個人的にはそんなに梅雨は嫌いではありません。家の外の雨音を聴いていると、外の世界と自分のいる場所が降り注ぐ雨で切り離されて、外向きだった気持ちがだんだんと自分自身へと向いてきて、落ち着いてくるような気がします。このひとときは自分だけの時間。たとえ一瞬でも、少し豊かな気分にひたれるのです。
梅雨は本来、私たちの生命の糧となるお米を育てるために欠かせないものであり、日本人の食卓を支えている縁の下の力持ち。あらゆるものにはいい面もあれば悪い面もあるもので、梅雨も決して悪い面ばかりではありません。ときにはいい面にも目を向けてみると、梅雨の過ごし方も少し変わってくるかも。外は雨でも、気持ちは晴れやかに過ごせたらいいですね。
参考文献:
国立天文台HP 暦計算室 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
『中国伝統医学による食材効能大事典』(山中一男・小池俊治編、東洋学術出版社刊)
『食薬方剤学』(本草薬膳学院刊)
画像素材:
Adobe Stock、Envato、Canva
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