
「そもそも自然とつながるってどういうこと?」
標題を見て、そう疑問に思われた方も多いことでしょう。
「自然とつながる」とは
体の内側に自然を感じることであり、
自然と体が調和するのを感じること。
自然とつながると、体が本来持っている「自然治癒力」が呼び覚まされて、病気になりにくい健康な心身に近づくことができます。
そして東洋医学(中医学)は、人間を自然とつなげる“架け橋”となるもの。
ここではそんな、東洋医学の自然や健康に対する考え方についてご紹介していきます。
現代人の心と体を「自然」とつなげる東洋医学

「自然とつながる」
なんだか気持ちよさそうな、健康的な響きですよね。
海辺で心地いいそよ風に吹かれているような、森の中できらめく木漏れ日を浴びているような……そんなイメージでしょうか。
でも、現代生活において「自然とつながる」ことを実感するのは、容易ではありません。
私たちの生活圏はアスファルトが敷き詰められ、街には四角い無機質な建物が立ち並び、部屋の中と外は分厚いコンクリートで分断され、その内側はほぼ一年中空調で温度をコントロール、そして季節の変化はニュースやネットで知ることが大半……。
現代人は便利で安全な暮らしを手に入れた半面、その目に映るもの、耳に入るもの、触れるものの多くは人工的であり、ライフスタイルも定型化、機械化されています。
色とりどりに美しく変化しつづける自然の世界とは、完全に別次元の時間と空間で生きているようです。
自然とのつながりがどんどん薄れてゆくと、その弊害が心や体に及ぶ場合も。ストレスや原因不明の不調に悩む現代人が多いことは、その最たる例といえるでしょう。
そんな現代だからこそ、多くの人に取り入れてもらいたいのが東洋医学です。

東洋医学は「人間は自然の一部である」という理論(整体観念)にもとづく医学。
「体の内側に自然が息づいている」という考え方の医学です。
自然から遠ざかりつつある現代人にこそ必要な、大いなる知恵だといえるでしょう。
東洋医学は“体の内側に息づく自然”と“体の外側に広がる自然”をつなぐことで
自然治癒力を高める
地球の歴史から考える「体の内側に息づく自然」
“体の内側に息づく自然”という考え方は、地球の歴史から見てもうなずけるものです。
地球は、宇宙に漂う微粒子や隕石が集まって、46億年前に誕生しました。

そして約40億年前、深海の海底で無機物が化学変化を起こし、原始生命が誕生しました。
原始生命となった無機物は、寿命を終えると海底に沈殿し、その一部はプレートとともに地下に沈み込んでマグマとなったと考えられます。

そのマグマが火山活動で噴出して岩となり、
その岩が波に削られて海に溶け込み、

その海水が太陽の熱で蒸発して雲になり、
そこから雨となって地上に降り注ぎ、

雨を吸収した植物の中で再び生命体となり、
その植物を食べた動物の体の一部となり……

……と、無機物は46億年の間、さまざまな姿形へと変わりながら地球上を壮大に旅してきました。
現在の私たちの体を構成する無機物もまた、そんな46億年の旅をへてきた存在。
そして、私たちの体を経由していずれまた別の生物や物質に生まれ変わり、地球上をめぐりつづけていくのです。
その無機物は、もともと宇宙の微粒子や隕石に含まれていたもの。宇宙のかけらだったわけです。
私たちの体はまさに自然の一部であり、宇宙の一部。
海、山、川、空……など、自然界のあらゆるものがひとつの環(わ)となってつながっていると感じられますよね。
東洋医学は“体内の異常気象”を整えて自然治癒力を高める医学

東洋医学の根本となる理論に、
「万物は『陽気』と『陰気』が混じり合って生まれている」
という考え方があります。
陽気とは太陽に由来する“熱する力”、
陰気とは大地(地球)に由来する“潤す力・冷やす力”のこと。
東洋医学では、自然界のあらゆるものは陽気と陰気という相反する力が混ざり合うことによって生まれ、成長、繁栄、進化をしていると考えています。
「万物は『陽気』と『陰気』が混じり合って生まれている」
自然界のあらゆるものは、陽気(太陽に由来する“熱する力”)と陰気(大地・地球に由来する“潤す力・冷やす力”)が混ざり合うことによって、誕生、成長、繁栄、進化をしている

人間の体も、陽気と陰気が混じり合って成り立っています。
そして人間は自然の一部なので、本来は自然界と同じリズムで体内の陽気と陰気が変化します。
◉昼
・自然界では陽気が強くなって、大地は温かくなり、生物たちは活発に活動する。
・人間の体も昼になると陽気が強くなり、エネルギーがどんどん燃焼されて体温が上昇し、心身が活発に活動していく。
◉夜
・自然界では陰気が強くなって、大地が冷えて水分が降り、植物は潤いや栄養を蓄え、動物たちは休息する。
・人間の体も夜になると陰気が強くなり、血液や水分が蓄えられ、熱がほどよく冷まされて、消耗したエネルギーが回復される。

しかし、自然が遠ざかっている現代生活では、陽気と陰気の変化のリズムが乱れやすくなっています。
すると、体内の陽気と陰気がアンバランスな状態となり、“体内の異常気象”と呼ぶべき症状が現れてきます。
例①:昼まで寝ている
自然界の陽気のピークが過ぎてから活動をはじめることになるので、体内の陽気が十分に育たず、陽気不足で陰気が多い(熱が不足して水分が多い)状態に
→虚弱体質や疲れ、冷え、むくみなどが現れやすくなる
例②:夜遅くまで起きている
本来は陰気が強くなる時間帯なのに心身を動かしているため、体内の陽気が強くなりすぎて血液や水分を消耗し、興奮状態が続く(熱が過剰で水分が少ない)
→老化、不眠、炎症、乾燥症状などが現れやすくなる
東洋医学とはこうした“体内の異常気象”をとらえ、陽気と陰気のバランスを整えて自然治癒力を高める医学なのです。
といっても、決して難しいものではありません。
まずは自分の体や心が、朝昼夜、春夏秋冬でどんなふうに変化しているのか観察することからはじめてみませんか?
「自然界の変化と体や心の変化が合っていないかも」という“違和感”に気づいたなら、それは「自然とつながる」大きな第一歩です。
さあ、東洋医学で自然とつながっていきましょう!
参考図書:『海はどうしてできたのか』(藤岡換太郎/講談社)
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