
新年あけましておめでとうございます。
冬至(とうじ)が過ぎ、年末年始が過ぎて、1月5日から二十四節気(にじゅうしせっき)の「小寒(しょうかん)」となりました。
暦の上では晩冬、二十四節気もあと約1ヶ月で一巡します。
小寒は「寒(かん)の入り」ともいわれ、1年で最も寒い「寒(かん)」の時期のはじまりでもあるとき。キリキリと肌を刺す寒気が張り詰めるこの季節の養生法について、国際中医師・国際薬膳師の筆者がご紹介していきます。
<前の節気>冬至(とうじ) 2025年12月22日~2026年1月4日
冬至は陰気のピーク、小寒は寒気のピーク

二十四節気もいよいよ終盤、1月5日~19日は23番目の節気である「小寒(しょうかん)」です。
ここから節分(2月3日)までの約1ヶ月間は、1年で最も寒い「寒(かん)」の時期。「寒の内」「寒中」などとも呼ばれ、そのはじまりとなる小寒の最初の日は「寒の入り」といわれています。

冬至の記事でも触れましたが、1年で最も夜が長くなる冬至の日(2025年12月22日)は「陰極まって陽となる」日です。東洋医学風にいえば「陰気(水分や栄養分)が満ちて陽気(熱エネルギー)が生まれる」日であり、冬至以降は自然界や人間の体内に陽気が少しずつ育ちはじめるとお話しました。
にもかかわらず、冬至のあとに1年で最も寒くなる時期がやってくるのは、一見矛盾しているように思われるかもしれません。
実は冬至と対になる夏至(げし)でも、同様の現象が起こります。
夏至は冬至とは真逆の「陽極まって陰となる」節気。陽気がピークに達し陰気が育ちはじめるので、これ以降は涼しくなってもよさそうなものですが、ご承知の通り夏至のあとに暑さは本番を迎えます。夏至の次に来る小暑(しょうしょ)、その次の大暑(たいしょ)は、1年で最も暑い「暑中」と呼ばれる季節です。
この矛盾にも思える現象は、「光の変化(日の長さの変化)」が季節を先導し、あとから「気温の変化」が追従するために生じるタイムラグなのです。
冬至の日は、光の変化で見ると「最も暗い日」であり「闇のピーク」。「陰気のピーク」といい換えることもできます。極まった陰気は大地や海や大気を冷やしますが、すぐには冷えず、寒くなりきるまでに時間を要します。焚き火を消してもすぐには冷えず、しばらく経ってから寒くなるのと似ているかもしれません。よって冬至に陰気のピークを迎え、その半月~1ヶ月後の小寒や大寒に「寒気のピーク」が訪れるわけです。
同様に、夏至は光の変化で見ると「最も明るい日」。「陽気のピーク」ともいえます。極まった陽気が大地や海を熱しますが、すぐには暑くならず、しばらく経ってから気温がピークに達します。夏至に陽気がピークを迎え、その半月~1ヶ月後の小暑や大暑に「暑気のピーク」がやってくるのです。
寒気は心身を引き締め、陽気を強固にする

寒気のピークがはじまる小寒の風物詩が「寒稽古(かんげいこ)」。1年で最も寒い時期の最も寒い時間(未明~明け方)に行われる稽古で、柔道や剣道、空手などの武道の稽古や寒中水泳などがありますが、その起源は平安時代や鎌倉時代からはじまったとされる神道の「禊(みそぎ)」や、仏教の「寒修行」などにあるといわれています。寒さに耐えながら稽古をすることは精神の鍛錬となり、なにごとにも動じない「不動心」を養い、心身の汚れを清めると考えられてきました。また、寒さで感覚が研ぎ澄まされ、体の内側から生まれる熱を実感できることも、稽古の真髄だといえるでしょう。
この寒稽古の考え方は、東洋医学の寒気のとらえ方にも通じる点があります。
東洋医学では、寒気の性質のひとつに「収引性」を挙げています。収引性とは、寒気が人体の皮膚や筋肉などを収縮させる作用。寒さで体がキュッと縮こまる現象のことです。これは悪く出ると皮膚や筋肉を引きつらせて痛みを招く原因となりますが、本来は体表面を引き締めることで体内の陽気が散じないように保護するための働き。また、体表面がギュッと収縮することによって体内の陽気が体の中心部、深奥部へと集められ、凝縮されて、熱が強められるという側面もあります。
冬至を境に、自然界や人間の体内では陽気が少しずつ育ちはじめています。その小さな陽気をギュッと濃縮して、強固に育つように鼓舞する寒気。陽気も寒気の冷たさに負けないようにと、必死で熱量を高めていきます。心身の生命力を強めるための寒稽古とは、まさにこの寒気の収引性を最大限に活かした修行だといえるでしょう。
ちなみに東洋医学では、冬は五臓の「腎(じん)」の働きが強くなると考えられていますが、この腎は「志(し=ものごとを成し遂げるこころざし)」と密接な関わりがあるとされています。精神を鍛錬する寒稽古は、寒気によって腎を鍛え、志を強くする養生のひとつということもできそうです。
体の熱源「命門(めいもん)の火」を強める「温裏(おんり)」とは

ということで、小寒は寒稽古で養生をしましょう⋯⋯という話ではありません(笑)。寒気は体の熱を奪って冷やすばかりの悪者ではなく、体表面を引き締めて生まれたての陽気を奮い立たせる火付け役にもなるということを、寒稽古の例を挙げてお伝えしたかったのです。
小寒の季節におすすめしたいのは、この「陽気を奮い立たせる」養生で、専門的には「温裏(おんり)」と呼ばれます。「裏」とは体の裏側という意味で主に内臓のことをさし、腎の陽気(=腎陽)をはじめとする五臓六腑の陽気を補って体の奥の冷えをやわらげることを温裏と表現します。
これは例えるなら、命を維持するために体の最奥部で燃えているかまどの火に、まきをくべるようなもの。
東洋医学では、このかまどの火を「命門(めいもん)の火」と表現します。
命門の火は腎陽の別称なのですが、温裏とはこの命門の火を守り、助け、燃え上がらせる養生法ということができます。
中国の明代の医師・趙献可(ちょうけんか)が記した東洋医学の古典には、「脾胃(胃腸)を釜のごとしとし、命門の火をかまどの火のごとしとす(胃腸は食物を煮炊きする釜のようなものであり、命門の火はその下で燃えるかまどの火のようなものである)」 と記されています。命門の火がしっかりと熱を生み出すと、そのエネルギーで胃腸での消化吸収が十分に行われるということを、かまどの火とその上の釜で食物がグツグツ煮える様子に例えた言葉です。
雪深い冬の日の日本家屋を思い浮かべてみてください。窓や戸が閉め切られ、室内はキンと冷えている。かまどにまきをくべて、火吹き竹で息を吹き込み、火種の炎を大きく燃え上がらせると、釜からもくもくと立ち昇る湯気とともに熱気が広がって、冷たかった空間が生き返ったように暖かくなっていく⋯⋯。寒気で凍てついた体に温裏の養生をすることは、こんな情景になぞらえることができるでしょう。
小寒の養生法:「ラム肉の温裏スープ」で命門の火を燃やそう

そんな命門の火にまきをくべて燃え上がらせるような温裏の養生法といえば、外せないのが薬膳です。温裏の効能を持つ代表的な食材には、羊肉、えび、さけ、あじ、にら、ピーマン、唐辛子、こしょう、花椒(山椒)、シナモン、フェンネル、クローブ、黒糖などがありますが、なかでも特にこの時期におすすめなのが羊肉料理。ジンギスカンやラムチョップステーキ、マトンカレーなどは、いずれも温裏の効能が期待できるメニューですが、より手軽に家庭で作るならラム肉スープがいいでしょう。
作り方は一般的な鶏肉のしょうがスープとほぼ同じで、コツとしては、下ごしらえとしてごま油で表面を焼きつけてから煮込むこと。香りが香ばしくなり、スープにもコクが出ます。ラム肉は赤身と脂肪のバランスがいい肩ロース肉か、ジンギスカン用の薄切り肉、少しぜいたくにするなら骨つき肉のラムチョップなどを選ぶといいでしょう。
ラム肉としょうが以外の具材としておすすめなのは、長ねぎ、しそ、パクチー、にら、にんじん、きのこ、キャベツ、くこの実など。小寒の期間に、いろんな組み合わせを試してみてはいかがですか? きっと体の奥からぽかぽかと温まり、エネルギーが湧くのを実感できるでしょう。
厳しい寒空の下、まだまだ遠い春ですが、芽吹きのときに備えて今から幼い陽気を少しずつ大きく育てていきましょう。
参考文献:国立天文台HP 暦計算室 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
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